ホンキートンクピアノ [調律のお話]
ホンキートンクピアノってご存知でしょうか?
多分一番「あぁ、あれね!」ってお馴染みがあるのは西部劇とかの映画の酒場のシーンを思い出してください。
酒場の隅っこで調律もされてなくて音の狂いまくったピアノで、でもなんだか味のある歌を痩せた髭のおじさんがピアノを弾きながら唄うシーン・・・そう、あの音がズレまくってるのがホンキートンクピアノなんです。
それは今から25年ほど前のお話、倉敷のあるピアノの先生のお宅に調律にお伺いしたときのお話。
その先生のお宅にはグランドピアノが2台あって両方のピアノの調律が終わってリビングでお茶をいただいてた時のこと、
そのリビングにはアップライトピアノが置いてあって、僕が
「そう言えばこのピアノって調律してないですよね?」
って何気なく聞いたら先生が
「そうなのよ、もうこれは使ってないし調律もしてないから音がすっごく狂ってて・・・」
と言われたあと少しの間があって先生が
「あっそうだ根岸さん、このピアノをホンキートンクで調律してもらえない?」って突然のお申し出があり
僕は 「ホンキートンクですか?やったこと無いですけど、やってみましょうか(汗)」
と調律師になって初めてホンキートンクの調律をすることになったんです。
やってみて初めて分かったんですが、普通の調律なら音が合ったところが終着地点なんですが、ホンキートンクは逆に音を狂わすので「ここでOK」という着地場所が無いんです。
いかにホンキートンクぽく合わせるかがすっごく難しくて、苦労したのを今でも覚えているんです。
あの時に見た映画のようなカッコええラグタイムピアノが弾ければもっと調律も捗ったと思うんですが、かれこれ40分ほど「あぁでもない、こうでもない」と悪戦苦闘してたのを覚えています。
それでも何とか調律が終わって、先生に弾いてもらってOKをいただいてホッとして・・・
今年で調律師生活も34年になりますが、今までで音を狂わせて調律料金を頂いたのはこの時の1台だけですな。
そんなことをふと思い出した休日の昼下がりだったんです。
鍵盤ハーモニカ [調律のお話]
今日はピアノじゃなくて鍵盤ハーモニカのお話。
わたくしが所属してるのは鍵盤技術部なので、ピアノだけじゃなくて鍵盤のある楽器はなんでも修理するんです。
例えば、大きい楽器だとパイプオルガンの調律&修理とか、あとは学校にあるオルガンとかエレクトーンとか、家庭にあるキーボードとか鍵盤ハーモニカなどなど。
さて、小学校に入学するとみんなが使うようになる鍵盤ハーモニカ。
鍵盤ハーモニカって、中に金属でできたリードプレートという部品があって、それが息を吹き込むことによってリードが振動して音が出る仕組みなんです。
問題はその金属製のリードプレート、これね。
息を吹き込むことによってリードプレートの表面に小さな水滴が付くんです。
水滴は10秒も鍵盤ハーモニカを吹いてるとプレート全体にびっしりと付きます。
(多分、冬の寒い日に窓ガラスに水滴が付くのと同じ原理かな?)
金属に水滴が付くと、当然長い年月(3~5年)をかけて錆が出てくるんです。
これが錆びたリードプレートね。
凄いでしょ?(^^);
当然こうなると音の鳴らない鍵盤が出てきたり、全体の音程が狂って気持ち悪い音になったりするんです。
これはリードプレートを新しい物に交換すれば直るんですが、鍵盤ハーモニカは中が見えないので実際に自分の鍵盤ハーモニカの中がどういう状態になってるかが分からないんですよね。
音が出なくなったり和音が気持ち悪い響きになってきたらリードプレートが錆びてきてると思ってください。
早いもので買って3年もすれば錆が出てきますからね。
新しいリードプレートに交換した状態がこれ。
全然色が違うのがわかると思いますが、「おかしいな?」と思われたら早めの修理をお奨めいたします。
「鍵盤ハーモニカって壊れない」って思われがちですが、リードプレートって消耗品ですから使ってるうちに異常が出てくる物なんです。
修理はお近くの楽器屋さんへどうぞ。
調律ってどうするの? [調律のお話]
調律って、どうやって音を合わせるの?
まずは真ん中の「ラ」の音を音叉で合わせるところから始まるんですが
その前に、ピアノに張られてる弦のお話を少しだけ。
ピアノの弦って1つの音につき、低音部には1本、少し音が高くなると2本に
そして中音部から最高音までは1つの音に弦が3本張られているんです。
真ん中の「ド」を中心にして、上のファと下のファの音の間に基本となる音階を作ります。
これを「割り振り」と言うんですが、1つの音につき3本の弦が張られているので
真ん中の弦だけが鳴るように長いフェルトを間に挟んで両側の弦をミュートするんです。
これで準備完了!
あとはラの音を音叉で合わせて、あとは4度とか5度とか6度、3度などの和音を使って音階を作っていきます。
どうやって作っていくかは、難しいので書くのやめときましょうか(汗)
音叉で合わせたラの音とレの音を一緒に鳴らしてレを合わせて、次はレとソを一緒に鳴らして・・・
こんな具合に2つの音を鳴らしながら合わせていくんです。
絶対音感で合わせてる訳じゃないんで、1つの音を聞いただけじゃ分からないんです。
こうやって1オクターブの基本となる音階が出来たら、次は真ん中だけ合わせた弦を3本とも同じ音に合わせるんです。
これを「ユニゾン」と言うんですが、この先はまた次回にでも。
ではでは、また次回まで。
調律って耳で聞くだけでわかるんですか? [調律のお話]
ピアノの調律にお伺いした時に、よく質問されるのが
「調律って耳で聞くだけで音の違いがわかるんですか?」
「他には機械とか使わないんですか?」
「絶対音感があるんですか?」
この3つの質問が圧倒的に多いように思いますので、その事について書いてみたいと思います。
質問①「調律って耳で聞くだけで音の違いがわかるんですか?」
(お答え)はい、聞くだけでわかるんです。でも一つの音を聞いて聞き分けているのではなくて、二つの音を鳴らしてその二つの音を鳴らすことによって出てくる音の波(うなり)を聞き分けているんです。
質問②「他には機械とか使わないんですか?」
(お答え)使うのは最初に音叉で基準となるAの音(ラの音)をとりますが、あとは耳だけで聞き分けていきます。
左の音叉が普通のギターのチューニングとかで使う音叉で、右側の大きい方の音叉がピアノの調律で使ってる音叉です。
この音叉、440Hz(440ヘルツ)という、1秒間に440回振動してラの音を出すんですが、音叉も金属製なので気温によって微妙に音程が変わったりするんです。ちなみに私が使ってるこの音叉は夏の暑い時は439Hzに、冬の寒い時期には441Hzと振動数が変化するのです。
ですのでコンサートとかのピッチ指定のある調律の時には機械のチューナーと音叉の両方を使って基準となるAの音を測定しているんです。
質問③「絶対音感があるんですか?」
(お答え)私はありません。なかには調律師で絶対音感をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、調律をする耳と絶対音感とはまた別で絶対音感が無くても調律は出来るんです。
余談ですが、音叉は440HzのA(ラ)の音を出してくれますが、その音叉を使ってピアノの鍵盤に基準の音をとるA(ラ)の位置は、実は220HzのAの音を出す鍵盤なのです。440HzのAよりも1オクターブ低いAの鍵盤に基準の音をとって、そこから音階を作っていく作業へと・・・
その音階を作るお話はまた次回にでも